各登壇者の講演内容を抜粋してご紹介します。
「脱炭素の潮流と企業に求められること」環境省近畿地方環境事務所 環境対策課長 兼 地域脱炭素創生室長 福嶋 慶三氏
福嶋氏の講演は、脱炭素社会への移行とその重要性に焦点を当てたものでした。石器時代の終焉や電話ボックスが街から消えたことを例に、テクノロジーの変化が社会をどのように変革するかや、EUでのガソリン車販売禁止やジェット移動の制限など、脱炭素化に向けた社会変化のスピード感についても触れられました。
1989年から2022年にかけての世界の時価総額ランキングの変化を挙げ、現代が第二の産業革命ともいうべき「脱炭素革命」(エネルギー革命)という社会変革の渦中にあること、そしてGX(Green Transformation)が重要な意味を持つことを強調。日本におけるカーボンニュートラルへの取り組みとその重要性に焦点を当てて、自治体や企業が一緒になってカーボンニュートラルに向けて取り組む動きが活発化しており、この動きに大きなチャンスがあると指摘されました。
GX(Green Transformation)投資の本格化にも触れ、官民合わせて150兆円(官から20兆円)の投資が予定される一方で、今後は排出企業に対するアメとムチの形で炭素税が導入されることが紹介されました。
また、企業にはSDGs経営が求められており、ESG投資や情報開示、そして企業自身だけでなくサプライチェーン全体での脱炭素化が必要であることを強調。脱炭素経営に対応できなければピンチである一方、うまく対応すれば大きなチャンスになると説明されました。
最後に、国の支援策を紹介し、将来どのような世界に暮らすことになるかは、現在及び近い将来の私たちの選択にかかっている。私たちの子どもたちが暮らす地球をどうするかは、今の私たちの行動によって決まるため、この考えに共感する人は是非一緒に取り組んでいこうと呼びかけられました。
「大阪府の脱炭素経営に関する取り組み」大阪府環境農林水産部脱炭素・エネルギー政策課 課長補佐 山本 祐一氏
山本氏からは、大阪府における脱炭素経営支援の具体的な取り組みについてお話しいただきました。大阪府の主な目的は、2050年までに大阪府域の二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること。この野心的な目標を達成するために、本部会議をつくって知事以下本気で取り組んでいると話されました。
脱炭素経営支援にも本腰を入れ、企業規模に合わせてそれぞれに対応。設備投資にも予算をつけているが、まだ認知は高くなく、具体的に取り組んでいる府内中小企業は現在13.4%にとどまっている。大阪府脱炭素経営宣言制度を設けているので、ぜひ前向きに取り組んでいきたい企業は宣言して欲しいと話されました。
ホームページでは信頼できる情報を集めて紹介しており、チェックリストもあるので是非試してみてほしいとのことでした。
また、国のJ-クレジット制度を活用した万博支援、サプライチェーン全体のCO2排出可視化プロジェクト、大阪版カーボンフットプリントについてもご紹介いただきました。
最後に、消費者が変わることは行政の仕事という面もあるので、世の中全体を脱炭素にするためにまずは大阪産(もん)野菜のカーボンフットプリントから取り組み、身近なところから意識を変えていきたいとお話されていたのが印象的でした。
「企業価値を高めるSDGs」EMIELD株式会社 代表取締役 森 優希
弊社 代表の森からは、SDGs経営を通じて企業価値を高めるポイントについてお話しました。森が、学生時代にタンザニアで路上に住む子どもたちを支援する団体の立ち上げの経験から、パーパス(志)・社会課題を知ることや現場に足を運ぶこと・事業を通じた課題解決の重要性を伝えました。
エミールド株式会社では、企業のソーシャルパートナーシップを展開しています。企業の社会的な存在意義を見出すパーパスの策定から、社会・環境課題を起点にした事業開発支援、教育支援まで一気通貫でコンサルティング支援しています。
エミールドの特徴としては、社会課題の現場の専門家(NPOや大学の教授、自治体)を巻き込むことで本質的な社会課題の解決に繋げる、企業の事業・経営課題解決に繋げているオーダーメイド型の提案です。具体的には、伊藤忠建材様でのパーパス策定支援、ノーリツ様でのSDGs教育支援などの支援実績も共有しました。
企業がSDGs経営を通じて企業価値を高めるポイントは下記3つです。
1.企業の社会的な存在意義を明確にする
創業の背景には、社会的な存在意義がある。企業の社会的な存在意義を改めて可視化することで、取引先・社員・学生などステークホルダーから、選ばれ続ける企業となる。
2.事業を通じた社会課題解決のしくみを創る
企業の未来を取り巻く社会課題を理解し、事業への機会とリスクを認識して、取り組む。
3.パートナーシップで取組を推進する
業種業界、バリューチェーン全体、また、NPO・大学など様々なご連携をすることで、イノベーションを創造する。
企業がSDGsに取り組む際には「何のために取り組んでいるのか」企業の社会的な存在意義を明確にすることが最も重要であると強調しました。事例を引用して、パーパスが財務状況にも影響をもたらすこと、パーパスを持つ企業・事業の成長率が高いことを紹介しました。
また、事業を通じた社会課題解決により、取引先から選ばれ続ける会社へと繋がります。また、社員は自身の仕事が社会貢献に繋がっていることで、働きがいを感じることができます。新卒就職活動の軸においては、「社会貢献」「人の役に立つ」ことを重要視する声が多いです。このように、本質的な事業を通じた社会課題解決への取り組みはステークホルダーから選ばれ続けることに繋がります。
しかし、実際には、SDGsに取り組んでいるように見せて実態が伴わず、社会課題の背景も知らないケースも散見されます。それらにより、企業のネガティブブランディングに繋がるリスクもあります。
企業の社会的な存在意義を再確認し、事業を通じた社会課題の解決で、ステークホルダーから選ばれ続ける会社への変化を改めて提唱しました。
「世界の水道インフラから持続可能な社会をつくる」テラオホールディングス株式会社 CEO 寺尾 忍氏
寺尾氏からは、2017年頃からいち早くSDGsやカーボンニュートラルに取り組んできた経緯や現在の取り組みをお話しいただきました。
家業を引き継いだ際、人口減少と公共工事の減少などの社会背景的な危機感から経営を多角化。地域社会と設備工事を結びつけ、本業の利益を生むことで事業を4年で5倍に成長させた経験について共有いただきました。
また、世界にも目を広げ、全世界76億人中約3割が安全な飲み水を確保できておらず、多くの人が水と衛生が理由で亡くなっているという問題に着目。特に5歳未満の子どもは分かっているだけで毎日800人が亡くなっている現状がある。その1%の8人であれば自社でなんとかできるのではないか、地方の中小企業が世界の課題の1%にコミットできるのは素敵なことだと考え、本気で取り組もうと考えられたそうです。
それらの地域では、日々の水汲みを女性や子どもが担っており、苦労して確保した飲水も衛生的でなく、その水が原因で亡くなる方もいる。水汲みをしなければならないので学校にも通えないという負の循環が生まれてしまいます。
試行錯誤を繰り返し、足りないのはお金と技術だと確信。最終的に出てきた解決策は、現地で食用淡水魚の養殖を行い、得たお金を元に、現地政府のインフラ事業として井戸を整備、その工事を自社に発注してもらうというビジネスモデル。このモデルをベースに他の国にも展開することで、持続可能な支援が可能になったとのことでした。
企業として取り組むには、ボランティアではなく、利益を得ることができる持続可能なものであることが不可欠。日本人はそこに苦手意識を持っているが、パーパスとして定めることで事業として行動に移すことができると話しておられました。
また、それらの結果として志のある会社で働きたいという学生が注目してくれ、求人が難しい福井でうまく採用ができたというお話、課題の本質に本当に向き合って事業に落とすと、独自性のあるビジネスモデルが確立できるというお話は、どの企業にとっても非常に魅力的なお話なのではないでしょうか。
「SARAYAのSDGsビジネス」サラヤ株式会社 取締役 コミュニケーション本部 本部長 兼 コンシューマー事業本部 副本部長 代島 裕世氏
代島氏からは事業の中心である家庭用洗剤と環境問題との関わりについてお話しいただきました。
家庭用洗剤はかつて水質汚染の環境問題の代表格であったが、それを解決するところから生まれたという「手肌と地球にやさしい」ヤシノミ洗剤。
一方で、その原料であるパームオイルについては、その栽培方法によって環境的・社会的な課題があることにも触れ、かつてサラヤがパームオイルを用いることへのメディアからの批判に直面したこと、その対応としてサステナブルパームオイルの認証制度(RSPO認証)に取り組んだことを紹介いただきました。
実際に現地視察でボルネオ島での熱帯雨林の破壊とパームオイルモノカルチャーによる生物多様性の損失を目の当たりにし、現地に新しい生物多様性保全に取り組む国際NGO ボルネオ保全トラスト設立に参画、日本の消費者にサラヤの取り組みを理解してもらわないとブランドが存続することが危ういと思い、ヤシノミ洗剤の売上1%をボルネオ保全トラストに寄付する消費者キャンペーンを続けていることなどをお話しいただきました。
また、2009年に人類初の新型インフルエンザパンデミックを経験し、サラヤの創業は感染予防という原点に帰り、2010年からアフリカ・ウガンダで取り組む衛生事業についてもご紹介いただきました。現地のサトウキビを利用してアルコール手指消毒剤を生産し、院内感染のリスクを減らすことに成功。今ではウガンダに行くと「サラヤ」が消毒剤の代名詞になっているそうです。
近年注目されてきた漂着海洋プラスチックごみ問題、水産資源の枯渇、さらに海と気候変動の関係に着目し、現在進めている海洋の課題解決プロジェクトについてもお話しいただきました。
海に関わるあらゆるステークホルダーが海の危機的状況の改善に挑む一般社団法人BLUE OCEAN INITIATIVEに参画。理事に就任している有識者の賛同も得て、産官学民、国際機関をも巻き込んだアクションの場に拡大しているそうです。大阪万博では「海の蘇生」をテーマにしたNPO法人ZERIジャパンが出展する民間パビリオン「ブルーオーシャンドーム」と連携して世界に情報発信することを計画、現在、一緒に海洋の課題解決をしてくれる仲間を募集中とのことでした。
まとめ
各講演者の話は、企業が経済的利益だけでなく、環境や社会への積極的な貢献を経営戦略の中心に据えることの必要性を示唆しています。企業が社会課題解決に向けて積極的な役割を果たすことは、今後のビジネスの在り方を大きく変える可能性を秘めており、これからの企業にはそのような責任がますます求められています。フォーラムは、持続可能な未来に貢献するための具体的なアプローチを示し、企業が直面する現代の課題に対して、革新的かつ実践的な解決策を模索する重要な機会となりました。
【開催概要】
■開催日時:2024年1月18日(木)15:00~17:30
■プログラム
15:00~ 本日の流れ説明・アナウンス
15:05~ 「脱炭素の潮流と企業に求められること」
講師:環境省近畿地方環境事務所 地域循環共生圏・脱炭素推進グループ 環境対策課長 兼地域脱炭素創出室長 福嶋 慶三氏
15:25~ 「大阪府の脱炭素経営に関する取組み」
講師:大阪府 環境農林水産部脱炭素・エネルギー政策課 気候変動緩和・適応策推進グループ課長補佐 山本 祐一氏
15:40~ 「企業価値を高めるSDGs経営」
講師:EMIELD株式会社 代表取締役 森 優希氏
16:05~ 休憩・名刺交換
16:15~ 「世界の水道インフラから持続可能な社会をつくる」
講師:テラオライテックホールディングス株式会社 代表取締役社長 寺尾 忍氏
16:45~ 「SARAYAのSDGsビジネス (仮)」
講師:サラヤ株式会社 取締役 代島 裕世氏
17:15~ 案内
17:30~ 名刺交換会
■対 象:企業、自治体のサステナブル担当者、社会課題に関心のある企業関係者等
■申込数:会場:42名/オンライン:78名
■開催方法:会場と「ZOOM」使用のオンラインセミナー同時開催
■会 場:おおさかATCグリーンエコプラザ内 セミナールーム(大阪市住之江区南港北 2-1-10 ATC ITM棟 11F )
■主 催:おおさかATCグリーンエコプラザ実行委員会(大阪市、アジア太平洋トレードセンター株式会社、日本経済新聞社)
■共 催:EMIELD株式会社
■後 援:エコネット近畿、大阪を変える100人会議、きんき環境館(環境省近畿環境パートナーシップオフィス)